文系機知人の読書メモ+α

読んだ本の内容とか私見とかをまとめたり関係のないことを垂れ流すやつです。しばらくは人文系多めです

第5回

 今回は割と分量が増えそうなので1冊だけ。

「昔はよかった」と言うけれど

  戦前のマナー・モラルから考える

大倉幸宏著

 以前から戦前の日本人のマナーはかなり悪かったということは小耳に挟んでいたことでした。そこで今回はこのような事実を詳しく説明する本作を紹介します。

 近年、人々のモラルが急激に下がったなどと言われます。これは当然、昔の人々はマナーやモラルといったものを大切にしてきたと言うことを伝えようとしていますね。しかし、筆者は戦前の数々の文献を紐解き、このような主張が正しくない、むしろ現在の方がよほどマナーやモラルといったものは遵守されていると言うように主張します。

 これらの過去の「野蛮さ」とでも言うべき代物は日本がこれまで目覚しい成長を遂げてきた証といってもいいでしょう。日本が開国を余儀なくされ、西洋的な事物が大量に流入するにつれ、日本という国の存続のためには、それらを受容せざるを得なくなりました。鎖国下までの日本では独自の文化やメンタリティのみでは補いきれないものを補充しようとしたのです。そこで今まで扱われてこなかったものを取り入れようとするために過去の日本の問題点が表面化したと言えます。そして、それらを克服しようと不断の努力が国ぐるみで行われて、現在に至るということが示されています。

 僕としてはこのような筆者の主張に加えて、諸文献から判明する日本の中流以下、即ち大多数の国民がどのようなものであったのかということが知ることができ、日本が一流になるまでの過程の一端が知れたように思えて大変面白いと思いました。間違いなく明治から大戦まで日本が行ってきたことは決して無駄ではなく、戦後の華々しい成長の礎になったのだろうと考えました。