文系機知人の読書メモ+α

読んだ本の内容とか私見とかをまとめたり関係のないことを垂れ流すやつです。しばらくは人文系多めです

第9回

玄侑宗久 著

さすらいの仏教語 暮らしに息づく88話

 著者は芥川賞作家の僧侶である。本著は日本語としてすっかり定着している仏教由来の語を取り上げて、由来とともに著者の解釈を加えている。我々が使用している意味が実は本来の意味とは変化していたり…といったことも少なからずあるし、思わぬ歴史を持っていたりして興味深い。インドで発祥した仏教が日本に伝播されて、日本人にどのように受け入れられていったのかを垣間見れて面白いと思う。

 

渡辺克義 著

物語 ポーランドの歴史

東欧の「大国」の苦難と再生

 ポーランドという国は日本では存在が埋もれがちだが、東西の大国、ロシアとドイツに翻弄され、抵抗を続けてきた国である。その歴史は波乱に満ちたものであり、両国の圧政に抵抗を続けてきた。時には独立を勝ち取ったこともあるが、大部分はそうもいかなかったのである。本著は概論的にそのようなポーランドの歴史を記述しており、ポーランドのあまり知られていない豊かさが知ることができると思う。

ちょっと余談その2

 多分この記事を読んでる方は東北大またはその近辺にいる方が多いと思いますが、

「東北地方インフラ悪くない?」

なんて思ったことはないでしょうか?思ってない方もとりあえず続きは読んでみてください。

 東北地方がインフラがあんまり良くない理由は人口が少ないのに面積が広いとか大した都市があんまりないってのもあるかもしれません。しかし、そんなことは日本の他の地方でも言えることです。

 特に宮城以北。本数が少なく、不便な思いをした方もいるでしょう。

 まあこんな感じでインフラがあんまり他の地方より良くないのは明治政府のせいです。

 江戸から明治への過渡期で旧幕府軍と明治政府は内戦を繰り広げていました。東北地方の多くの藩は旧幕府側についたのは皆さんもお分かりかと思います。当然、明治政府の方が勝ったわけですね。そして、東北地方に対してその報復措置として意図的に鉄道などのインフラ整備を遅らせたわけです。

 東北地方は江戸時代からたびたび飢饉に見舞われており、日本の中でも決して豊かな地域だったわけではありません。東北地方に流れるお金が北海道や植民地に流れていったって感じです。

 まあ、戦後の経済発展によってそのような不便さは解消されているとは思いますが、私見ではまだその名残があるように思えます。

第8回

地図で読みとく 江戸・東京の「地形と経済」のしくみ

鈴木浩三 著

 江戸周辺はは古代から発展と衰退を繰り返していた。これを日本最大の都市に仕立て上げたのが徳川一門である。

 本著では徳川家がいかにして江戸を作り上げたのかを解説している。全体として事実と事実を並列させて解説を行うという感じで、どちらかというと入門書的な位置付けであるように感じられる。これによって比較的わかりにくいと思われる江戸時代の経済の仕組みの概論は理解しやすいとは思うが、私個人としてはもう少し筆者個人の意見を交えて解説してもらった方がいいのではないかと思ってしまった。

 

文豪たちの「?」な言葉

馬上駿兵 著

 本著では文豪の作品を取り上げて、一目見る限りでは「?」となる表現をピックアップして解説を加えている。このような「?」となる表現は、文豪たちの単なる見落としのように思われるが、実はそうではなく、型通りの日本語にとらわれる事なく、より作品の世界を的確に表現するべく敢えて違和感の残るように、味わい深くなるように、そのような表現を取った。作者たちの細々とした工夫に気づかせてくれる一冊である。

第7回

色々とあって本が読む機会がなかった。

今回読んだのは、

躍動する青春 日本統治下台湾の学生生活

鄭 麗玲 著

河本 尚枝 訳

 1895年、日本は日清戦争に勝利し、台湾とそれに付属する諸島を獲得した。これが日本初の植民地である。

 列強の植民地は往々にして本国に都合の良いように、現地住民に教育を施さなかったり、分断的な政策(代表的なもので言えばインドネシアにおけるオランダの言語の統一的教育を実行しなかったとされるというもの)を行うなど、現地住民が反乱を起こさず搾取されるがままになるようにと統治が行われていた。

 これに対して、日本の植民地政策はこれとは多少異なり、(少なからぬ内地人との格差はあるが)教育を十分に施し、内地延長主義を掲げていたようである。

 台湾にも、旧制小学、中学、高校、大学が次第に設立され、少しずつではあるが内地に近づきつつあった。

 本書ではこのような台湾における学生生活に焦点を当て、台湾でも内地と遜色ないものがあったというものを取り上げている。

 戦前の台湾人に日本人に並ぶ特権が与えられたとは言えないが、日本が台湾の基盤を作りえたということは無視はできないように思われる。

ブログ内容の変更

 3ヶ月ぐらい不定期で読んだ本(ちょくちょく関係のない話についても触れましたが)について紹介してきましたが、読書する時間とかがなかなか取れなくて更新が滞ることがしばしばありました。もしこのブログを楽しみにしてる方がいたら申し訳ないです…。僕個人としてももう少しこのブログを活用できたらなと思っています。

 そこで、僕の趣味ネタについて500字以上書けることが見つかったらそれについても投稿していこうと思います!

 このブログを見てくれている方でしたらおそらく僕のツイートも見てくれていると思うんですが、改めて僕の趣味を列挙すると

①歴史ネタ(特に古代史と近代史)

これが一番分野としては広いかもしれません。僕が歴史の分野として最も好きなのは経済史ですね。これは全ての時代において好きです。一般的には政治史とかに重点が置かれがちですが、カネの流れから歴史を捉え直す、なんてことに何かロマンを感じますね。

クラシック音楽

 これは趣味が一致する人が一番多いでしょう。散々言及しましたが僕はバロック音楽が特に好きです。詳しくは長くなりそうなので差し控えますが、バッハの管弦楽組曲マタイ受難曲ヨハネ受難曲ロ短調ミサ曲は人類の財産だと思います。古典派もファゴットが目立ってて結構好きだったりします。ロマン派以降でしたらサン=サーンスあたりがおすすめです。現代の楽器で演奏されているのも好きなんですが僕としてはやっぱりピリオド楽器で演奏されてるのめっちゃ好きです〜。

③FPOPとQPOP

これは通じる人を探すのが困難なので(それでも奇跡的に前者は通じる人が存在してびっくりでした)詳細は書きませんがIndilaとStromae, МеломенとЕрке Есмаханはおすすめなので聞きましょう。

 僕のツイートは大体半分かそれ以上はこんなネタなのであんまりにも長くなりそうなネタはこっちでまとまったら書くようにするのでよかったら見てください。

第6回

 今回はそもそもの内容からしてかなり重いので一つだけ。

日露戦争諷刺画大全(上・下)

飯倉 章 著

 日露戦争前後まで、諷刺画は写真技術が未発達だということもあって、報道では大きな役割を果たしてきました。当然、必ずしも事実を伝えているとは限りませんが、当時の情報伝達の程度などを鑑みるとなかなかの正確さと編集者達の手腕が発揮されていると言えるでしょう。

 本書では日露戦争にまつわる諷刺画を数多く取り上げ、公式には示されていない各国政府の思惑を考察しており、特定の国家や政治家、そして軍人の当時の評価などについても取り上げていたりします。これらの諷刺画は芸術的な価値を考える必要はなく、当時の人々がどのような背景知識や価値観を持って、情勢を見届けていたのかを知るヒントとなっていたり、時として謎かけのようなものを組み込んでいたりしているため、それを解き明かすといったものも楽しめて大変面白く感じました。

 日本でもこのような西洋で描かれたものの影響を受けて、明治初頭から諷刺画の類が描かれるようになりましたが、僕の知る限りでは比較的わかりやすいものしか見られていない印象があったため、そこら辺はもう少し詳しく見ていきたい所存です。

 

 それにしてもやっぱり自分の興味関心に忠実に本を選ぶと歴史物、特に日本の古代史と近代史しか選びませんね…。もっと偏りなく読めるのが一番なんでしょうが、ここら辺のものって受験日本史が伝えられてないもの、もしくは意図的に伝えようとしていない事柄がたくさんあって、調べれば調べるほどに新しい発見があって面白いんですよね〜。それに日本政府(?)の思惑や経済情勢、他国から見た日本の有様というのも実に興味深いので今後もおそらく日本史関連の書籍ばかり読むことになると思います…。

 次回ぐらいからはもう少し偏りのないように本の選定をしていくように努力します。

 

第5回

 今回は割と分量が増えそうなので1冊だけ。

「昔はよかった」と言うけれど

  戦前のマナー・モラルから考える

大倉幸宏著

 以前から戦前の日本人のマナーはかなり悪かったということは小耳に挟んでいたことでした。そこで今回はこのような事実を詳しく説明する本作を紹介します。

 近年、人々のモラルが急激に下がったなどと言われます。これは当然、昔の人々はマナーやモラルといったものを大切にしてきたと言うことを伝えようとしていますね。しかし、筆者は戦前の数々の文献を紐解き、このような主張が正しくない、むしろ現在の方がよほどマナーやモラルといったものは遵守されていると言うように主張します。

 これらの過去の「野蛮さ」とでも言うべき代物は日本がこれまで目覚しい成長を遂げてきた証といってもいいでしょう。日本が開国を余儀なくされ、西洋的な事物が大量に流入するにつれ、日本という国の存続のためには、それらを受容せざるを得なくなりました。鎖国下までの日本では独自の文化やメンタリティのみでは補いきれないものを補充しようとしたのです。そこで今まで扱われてこなかったものを取り入れようとするために過去の日本の問題点が表面化したと言えます。そして、それらを克服しようと不断の努力が国ぐるみで行われて、現在に至るということが示されています。

 僕としてはこのような筆者の主張に加えて、諸文献から判明する日本の中流以下、即ち大多数の国民がどのようなものであったのかということが知ることができ、日本が一流になるまでの過程の一端が知れたように思えて大変面白いと思いました。間違いなく明治から大戦まで日本が行ってきたことは決して無駄ではなく、戦後の華々しい成長の礎になったのだろうと考えました。